その男、才谷 梅太郎。
今回は、彼が子猫時代に抱えていた不安要素についてお話します。長いです。でも書き残します。長いので2つに分けます。
先ずは出生時にアラ?となった事象から。
紹介記事でも触れている様に、出生時は未熟児でした。被毛も手足やお腹の内側とか、ところどころ生え揃ってなくて裸ネズミの様だなと思ったのを覚えています。とはいえ数日で毛は完全に生え揃ったので、そこはあまり気にしませんでした。ですが、尾。しっぽの先が何だかトロンとしていたのです。生まれてすぐ分かりましたが、先ずはこの小さな命を救う事に専念せねば、と確認は後回しにしていました。それで数日経って落ち着いた頃、しっかり確認してみました。真っ先に疑ったのはキンクです。
一般の方の為に解説しますと、キンクとは、尾の骨が曲がった状態を言います。日本猫でかぎしっぽになってる子はご存知でしょうか?あれもキンクです。血統猫においてキンクは大体、先っちょに現れます。これは遺伝的なもので、親猫がキンクだと100%ではないですが、子猫に遺伝します。もしくは先祖にキンクの子がいると、子孫にキンクが出る確率が高まります。先祖にキンクがいるかどうか、それは何代まで遡ればいいかハッキリ分からないわけで、なのでどんな子にも起こり得るかもしれない、とブリーダーは子猫の尾(あと男の子の睾丸)に関しては必ずチェックを入れます。
ちなみに、キャットショーではキンクが認められた場合、団体にもよりますが基本はDisq. (私たちはディスク、ディスクオリファイとか言います)つまり失格です。スタンダードから外れるという意味ですので、キンクのある子は交配には使わない様にします。ただ、ペットとして飼うには健康上、何ら問題はなく、それこそ「個性」ですから、繁殖用でなければ全く問題ナッシングです。
で、長い説明になってしまいましたが、梅太郎の話に戻ります。まずキンクを疑い、その場合だと触って骨が確認できます。しかし彼のはトロンとしていてそこだけゴムの様。んん?なんだコレは??初めての感触だゾ…ウーン、となり。
離乳期を迎えた頃、病院でレントゲンを撮ったら、身はあるけど第1尾椎(先の骨)がない珍しい症例との事でした。え?!骨がない?!身はあるのに?!へぇ~~そりゃ初めて聞いたわ!となりました。
実際、長年ブリーディングしていますがキンク自体うちは出たことがないので、身や皮膚はあるというのが珍しいと言われてもピンと来なかったです。
そもそも猫の尾は何椎と数が決まっているわけではなく、長さもバラバラ、猫によって尾は個性でありそれぞれなのですが、ただ骨がないのは初見だったので、尾は脊椎に直結してますから、それが例えば将来、歩行に支障がないかとか色々考えたわけです。私は元々スコティッシュという奇形から派生した猫種を扱ってましたので、尾や脊椎からくる歩行障害には殊更に敏感になっていました。
それと、もう1つの不安要素が。生後2ヶ月くらいの時から、寝ている時やリラックス中、軽い痙攣?の様な症状がありました。あと喉をゴロゴロ鳴らさないのです。明らかに喜んでいますが鳴らない。そういや母乳を飲んでいる時も鳴らしていなかったな…ま、しかしたまにこういう子は居るので。
痙攣の方は、見ていて驚く様なひどいものではなく、分かりやすく説明すると、ビクビク系ではなく少しプルプルするくらい。でもちょっと不安。こちらは脳か神経を疑い、それもついでに主治医に相談。しかし脳神経に異常があったり、例えば脳腫瘍など、そういう類のものでは無いと診断され、もっと細かく知りたければと専門病院を紹介されました。
早速その専門医の元へ出向きましたが、精密検査は1歳くらいまで成長しないと調べられない旨を聞き、一応今できる診察だけ、という事で診てもらいました。
その時点の結果は「尾のことも、喉のことも、動画で見る痙攣らしきものも、さほど気にされる症状ではないし、ご心配は杞憂では?」と言われましたが、そりゃ一般の飼い主ならそうでしょうよ、しかし私はブリーダー。不安要素のある子を譲渡してこの先オーナーさんが苦労するのは忍びない。遺伝的なものがあるなら交配も考えなければならない。
……で、紹介文にもある様に、事情をきちんと説明した上で希望されるオーナーさんをお断りし、経過をみるためにうちに残したわけです。
時にブリーダーである私たちは、問題が生じる可能性のある子猫を簡単には譲渡しない決断に迫られます。世の中にはそれでも売れればいいという考えの方も居るかも知れませんが、よそは他所、うちはうち。私は絶対に嫌です。それは自分がもしそのオーナーの立場なら、と考えるからです。ブリーダーはこういった不安をオーナーさんから無くすのも責務だと考えます。そして、もし譲渡するなら隠さずにお相手に納得してもらってからでないといけないと思います。
こういった事も有り得るので、キャパ確保のため頭数を増やさない様に努めているわけです。そこそこ長い繁殖歴の中で、残す決断をしなければいけなかった事は1度しかありませんが、それはただ単にラッキーだっただけです。いつ、何匹、こういう不安要素のある子が産まれるかなんて誰にも分かりません。
ちなみに、梅太郎の両親猫の交配はこの時をもって最後にしています。
……そして、月日は流れ、梅太郎が大人になってしばらく経った日、いよいよ精密検査を受けました。その2へ続く。
Comentários